当科の犬飼らの論文
A specific linkage between the incidence of TP53 mutations and type of chromosomal translocations in B-precursor acute lymphoblastic leukemia cell lines. Inukai, T, Zhang X, Kameyama T, Suzuki Y, Yoshikawa K, Kuroda I, Nemoto A, Akahane K, Sato H, Goi K, Nakamoto K, Hamada J, Tada M, Moriuchi T, Sugita K.」が、 アメリカの血液専門誌である「American Journal of Hematology」の2010年7月号に掲載されました (Am J Hematol. 85: 535-537, 2010)


p53遺伝子産物TP53は「ゲノム(遺伝情報)の守護神」とも呼ばれ、 DNAが損傷を受けると細胞の増殖を止めてDNAの修復機構を活性化するとともに、 修復不能な損傷を受けた場合には細胞死を誘導する機能を担っています。 多くのがん細胞ではTP53の異常によってゲノムが不安定な状態に陥っており、 p53遺伝子の異常が「がん」の発症や進展に関与していることが明らかになっています。 一方、小児の急性リンパ性白血病では、様々な種類の染色体転座(染色体が特定部位で切断を受け、 別の染色体上の切断部位と再結合した状態)が認められ白血病の発症に深く関与しています。 そのなかで、治療予後が不良とされる9;22転座陽性白血病ではp53遺伝子の異常が極めてまれであるという報告と、 予後が比較的良好な1;19転座陽性白血病や乳児に多い11q23関連転座陽性白血病ではp53遺伝子の異常が比較的多いという報告があります。 しかし、染色体転座のタイプによるp53遺伝子異常の頻度を直接に比較した報告はありませんでした。 そこで、継代培養が可能になった白血病細胞株ではp53遺伝子異常の頻度が高い点に注目して、 小児の急性リンパ性白血病から樹立された32種類の細胞株でp53遺伝子の解析を行いました。 その結果、1;19転座や11q23関連転座のある細胞株の半数以上でp53遺伝子異常が認められた一方で、 9;22転座や17;19転座陽性のある細胞株では変異が極めてまれであることを確認しました。 この結果は、染色体転座の種類によって白血病発症におけるp53遺伝子異常の意義が異なることを示すとともに、 1;19転座や11q23関連転座のある白血病ではp53遺伝子異常の有無が予後を予測する因子の1つとなり得る可能性を示唆すると考えられます。

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