当科の喜瀬らの論文
Cardiac and haemodynamic effects of tacrolimus in the halothane-anaesthetized dog. Kise H, Nakamura Y, Hoshiai M, Sugiyama H, Sugita K, Sugiyama A.」が、 臨床薬理学の専門雑誌である「Basic and Clinical Pharmacology and Toxicology」の2010年4月号に掲載されました (Basic Clin Pharmacol Toxicol. 106:288-95, 2010)


タクロリムスは移植医療で広く用いられている免疫抑制薬です。 タクロリムスは脳や心臓における虚血障害に対する保護作用が報告されている一方で、 臨床において心室筋の活動電位持続時間の平均的な長さを表わす心電図上のQT時間の延長や致死性不整脈の発生が報告され、 小動物や培養心筋細胞を用いた実験でもQT時間の延長に合致する結果が報告されています。 そこで、より人間に近い条件で解析できるハロセン麻酔犬モデルを用いて、 タクロリムスの心血行動態への作用を評価しました。 その結果、低用量のタクロリムス投与によってQT時間の延長に一致する電気生理学的所見が確認されました。 さらに、臨床での投与量に相当する用量では、心拍数、平均血圧、末梢血管抵抗、心拍出量が低下するとともに、 左室収縮力の低下と活動電位持続時間の延長が確認されました。 また、活動電位持続時間の延長では、心筋細胞のカリウムイオン・チャンネルでの遅延整流K+電流の速い成分(IKr)を阻害する薬物に特徴的なパターンが確認され、 培養細胞を用いた実験系でもタクロリムスがIKrを阻害することを確認しています。 この活動電位持続時間の延長はタクロリムス投与終了後に血中濃度が低下しているにもかかわらず進行しました。 こうした結果から、タクロリムスは臨床相当用量において降圧作用および陰性変時、変力、変伝導作用を有するとともに、 不整脈の発生を促進する可能性があることが、人間の生理学的な条件に近いハロセン麻酔犬の実験系で確認されました。 さらに、血中濃度が低下してからも再分極過程の延長が増強されたことから、心筋細胞への蓄積がある可能性が示唆され、 タクロリムスの投与中には血行動態および心電図を十分に観察する必要があると考えられます。

前のページへ戻る


研究業績へ戻る