当科の赤羽らの論文
「Resistance of T-cell acute lymphoblastic leukemia to tumor necrosis factor--related apoptosis-inducing ligand-mediated apoptosis.
Akahane K, Inukai T, Zhang X, Hirose K, Kuroda I, Goi K, Honna H, Kagami K, Nakazawa S, Endo K, Kubota T, Yagita H, Koyama-Okazaki T, Sugita K.」が、
実験血液学の専門誌である「Experimental Hematology」の2010年10月号に掲載されました
(Exp Hematol. 38:885-895, 2010)。
白血病の治療成績は、化学療法とともに骨髄移植をはじめとする同種造血幹細胞移植の進歩によって大きく改善してきました。
特に、同種造血幹細胞移植では化学療法で再発した症例においても治癒が得られる場合があり、
その治療効果を細胞レベルで明らかにしていくことが、将来的な白血病の治療成績の向上には重要であり、
多くの研究が進められています。
同種造血幹細胞移植では、移植されたリンパ球やナチュラルキラー(NK)細胞が
患者さんの体内に残存する白血病細胞を免疫学的に攻撃する移植片対白血病(GVL)効果が、
白血病を根絶する原動力になっています。
このGVL効果は、細胞傷害性T細胞やNK細胞に表出されている細胞傷害因子が、
白血病細胞に表出される受容体に結合して白血病細胞に細胞死を誘導することで発揮されます。
ですから、白血病細胞における細胞傷害因子に対する受容体の発現の有無は、GVL効果と密接に関連していることになります。
この研究では、T細胞型急性リンパ性白血病(T-ALL)の細胞傷害因子に対する受容体発現と感受性について検討しました。
T-ALLは、近年の強化された化学療法で予後が改善されたものの、再発例の予後は依然として不良で、新たな治療法が模索されています。
そこで、代表的な細胞傷害因子であるFasLとTRAILの受容体発現と感受性を検討したところ、
T-ALL細胞ではFasLに対する受容体が発現されて感受性を示す一方で、
TRAILに対する受容体の発現レベルが低く耐性を示す傾向があることがわかりました。
GVL効果にはFasLよりもTRAILが主要な役割を果たしていることから、
T-ALL細胞でTRAILの受容体発現が低レベルである原因を詳しく調べたところ、
TRAIL受容体の遺伝子が不活性化されていることが判明しました。この遺伝子の不活性化は、
遺伝子発現をコントロールする転写因子の活性が低い上に、
遺伝子自体がメチル化という機序で修飾を受けていることが原因であることが示唆されました。
これらの結果から、T-ALL症例に対する同種造血幹細胞移植の治療成績向上には、
TRAIL以外の細胞傷害因子を介した抗腫瘍効果を誘導するような方法が求められると考えられます。
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