当科の廣瀬らの論文
Aberrant induction of LMO2 by the E2A-HLF chimeric transcription factor and its implication in leukemogenesis of B-precursor ALL with t(17;19). Hirose K, Inukai T, Kikuchi J, Furukawa Y, Ikawa T, Kawamoto H, Oram SH, Göttgens B, Kiyokawa N, Miyagawa Y, Okita H, Akahane K, Zhang X, Kuroda I, Honna H, Kagami K, Goi K, Kurosawa H, Look AT, Matsui H, Inaba T, Sugita K.」が、 血液学のトップ・ジャーナルである「Blood」の2010年8月号に掲載されました (Blood. 116: 962-970, 2010)


転写因子は遺伝子のRNAへの転写を制御している蛋白質で、 細胞レベルでの様々な生命現象に深く関与しています。 造血も転写因子によって精緻に制御されており、 赤血球や顆粒球、リンパ球など全ての血球系における系統決定や、 その成熟過程(分化)において転写因子は中心的な役割を果たしています。 ですから、造血細胞における転写因子の発現や機能に異常を生ずることは、 白血病の発症につながることになります。 白血病細胞における転写因子異常の代表的な機序として、 染色体転座(特定の部位で切断された染色体が、別の染色体上の切断部位と再結合した状態)があります。 染色体転座による転写因子の異常は、転写因子の発現において量的な異常を生ずる場合と、 2つの遺伝子が途中で融合して機能的に異常な転写因子(融合転写因子)を生ずる場合に大別されます。 LMO2は造血に必須の転写因子の1つで、 染色体転座によるLMO2遺伝子の恒常的な発現が T細胞性の急性リンパ性白血病(ALL)の発症に深く関与することが、以前から知られていました。 この論文で私達は、世界で初めてLMO2遺伝子の量的な発現異常がB前駆細胞性のALLの発症にも関与していることを、 17;19転座型ALLで明らかにしました。 しかも、17;19転座によって生じたE2A-HLF融合転写因子がLMO2遺伝子の発現を促しているという機序も、 これまで知られていない新しい知見でした。 興味深いことに、正常のB細胞への初期分化の段階においてLMO2遺伝子の発現レベルが急激に低下していることと、 17;19転座型ALL細胞におけるLMO2遺伝子の発現を干渉RNAという手法を用いて抑制すると 細胞死が誘導されることもわかりました。 したがって17;19転座型ALLでは、E2A-HLFがLMO2の発現を誘導することで、 正常のB細胞への分化が妨げられると同時に細胞の生存が維持されて白血病の発症にいたる可能性が 明らかになりました。

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