当科のらの論文
Endoplasmic reticulum stress inducers, but not imatinib, sensitize Philadelphia chromosome-positive leukemia cells to TRAIL-mediated apoptosis. Zhang X, Inukai T, Akahane K, Hirose K, Kuroda I, Honna H, Goi K, Kagami K, Tauchi T, Yagita H, Sugita K.」が、 白血病研究の専門誌である「Leukemia Research」の2011年7月号に掲載されました (Leuk Res. 35, 940-9, 2011.)


フィラデルフィア染色体と呼ばれる9番と22番染色体の構造異常(転座)を持つ白血病では、 従来は同種造血幹細胞移植が唯一の根治的治療法とされていました。 同種造血幹細胞移植では、移植されたリンパ球やナチュラルキラー(NK)細胞が、 患者さんの体内に残存する白血病細胞を免疫学的に攻撃する移植片対白血病(GVL)効果が、白血病を根絶する原動力になっています。 このGVL効果は、細胞傷害性T細胞やNK細胞に表出されている細胞傷害因子が、白血病細胞に表出される受容体に結合して白血病細胞に細胞死を誘導することで発揮されます。 私達は、フィラデルフィア染色体陽性の白血病細胞では、細胞傷害因子の1つであるTRAILに対する受容体が発現されており、 TRAILによって細胞死が誘導されることから、このTRAILがフィラデルフィア染色体陽性白血病に対するGVL効果に関与している可能性があることを既に報告しています(Blood 101;365-3667,2003)。 一方、フィラデルフィア染色体によって形成されるBCR-ABL異常蛋白に対して、特異的に阻害作用を発揮する薬剤(グリベック)が開発されて、 治療薬としてひろく用いられています。このグリベックが、心筋細胞においては細胞内小器官の1つである小胞体に作用して、小胞体ストレスと呼ばれる種々の変化をもたらすことが報告されました。 小胞体ストレスは、一部の腫瘍細胞でTRAIL受容体の発現を誘導してTRAILの効果を高めることが確認されていることから、 グリベックがフィラデルフィア染色体陽性白血病細胞に対して小胞体ストレスをもたらし、結果的にTRAIL感受性を高める可能性が考えられました。 そこで本研究では、まずグリベック以外の小胞体ストレス誘導作用のある薬剤が、フィラデルフィア染色体陽性白血病細胞に対して小胞体ストレスを誘導し、 実際にTRAILに対する感受性を高めることを確認しました。 ところが、グリベックはフィラデルフィア染色体陽性白血病細胞に対して小胞体ストレスを誘導する作用は示さず、 グリベックの小胞体への影響は組織ごとに異なると考えられました。 それどころか、グリベックはTRAIL受容体の発現を低下させてTRAILの効果を減弱させる作用が確認されました。 これは逆に言えば、フィラデルフィア染色体陽性白血病細胞におけるTRAIL受容体発現にBCR-ABLが関与している可能性を示す新知見であり、 同種造血幹細胞移植後にグリベックを投与するとTRAILを介するGVL効果が減弱されてしまう可能性を示唆します。 これらの可能性については、詳しい解析を現在進めているところです。

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