当科の中根らの論文
Transient isolated marked elevation of midregion parathyroid hormone fragments in an infant.  Nakane T, Higashida K, Sugita K」が、 臨床小児内分泌の専門誌である「J Pediatr Endocrinol Metab」の2012年9-10月号に掲載されました (J Pediatr Endocrinol Metab. 25:1031-1033, 2012.)


大泉門は、個人差がかなりありますが一般に生後8〜10ヶ月位までは増大して以後は縮小し、だいたい1歳半ごろに閉鎖します。今回、大泉門が月齢の割にとても大きいことを主訴に受診した乳児において、頭囲の拡大や中枢神経系の異常を示唆する所見を認めなかったため、クル病などの骨代謝異常を除外診断するために検査を進めました。その結果、骨の代謝をつかさどる副甲状腺ホルモンのうち、ホルモンの中間部を構成する成分だけがきわめて高い血清濃度を示すことがわかりました(血清カルシウム値やリン酸値、骨代謝に関係する他のホルモン値は正常でした)。小児例だけではなく成人例も含めて文献を調べても、今回のように中間部副甲状腺ホルモンのみが異常高値を呈した病態や症例の報告は全くありませんでした。この症例は、定期的なフォローを続けていく中で、大泉門は自然に閉鎖し、中間部副甲状腺ホルモンも正常範囲内に低下しました。副甲状腺ホルモン遺伝子の塩基配列を解析しても変異は認められなかったことから、今回の症例における中間部副甲状腺ホルモンの異常な増加は、肝臓や腎臓における中間部副甲状腺ホルモン分解系の未成熟に起因するものであると推測されました。今回の症例における大泉門の拡大と中間部副甲状腺ホルモンの異常高値との因果関係ははっきりしませんが、中間部副甲状腺ホルモンの異常な増加があるにもかかわらず、骨やカルシウム代謝の明らかな変化は認められなかったことは重要な知見であり、中間部副甲状腺ホルモンが生体に及ぼす影響は非常に少ない可能性が示唆されました。小児科外来では、ありふれた病気からとても珍しい病気まで、いろいろな病気と遭遇します。今回も、大泉門が大きいこと自体は取り立てて珍しいことではありませんが、このように比較的ありふれた臨床症状であっても、よく調べてみると新しい知見につながることがあると教えてもらった貴重な症例です。

前のページへ戻る


研究業績へ戻る