当科の黒田らの論文
BCR-ABL regulates death receptor expression for TNF-related apoptosis-inducing ligand (TRAIL) in Philadelphia chromosome-positive leukemia.  Kuroda I, Inukai T, Zhang X, Kikuchi J, Furukawa Y, Nemoto A, Akahane K, Hirose K, Honna-Oshiro H, Goi K, Kagami K, Yagita H, Tauchi T, Maeda Y, Sugita K.」 が、がんの基礎研究におけるトップ・ジャーナルの1つである「Oncogene」の2013年3月号に掲載されました (Oncogene 32:1670-1681, 2013.)


9番染色体と22番染色体の構造異常(転座)の結果生ずるフィラデルフィア染色体を持つ急性リンパ性白血病は、従来の抗がん剤による化学療法では非常に治りにくい一方で、骨髄移植に代表されるような同種造血幹細胞移植療法の有効性が比較的高いことが、以前から知られていました。同種造血幹細胞移植療法においては、移植されたリンパ球やナチュラルキラー細胞が、患者さんの体内に残存する白血病細胞を免疫学的に攻撃(移植片対白血病効果と言います)することが、白血病を根絶する原動力になっています。私達は、リンパ球やナチュラルキラー細胞が発現している細胞傷害因子の1つであるTRAILに対して、フィラデルフィア染色体陽性白血病細胞が高い感受性を示すことを世界に先がけて発見し、TRAILの移植片対白血病効果への関与の可能性を2003年にBlood誌に報告しました。一方、フィラデルフィア染色体から生ずるBCR-ABL融合蛋白に特異的な分子標的治療薬として開発され高い有効性を示すImatinibが、白血病細胞のTRAIL受容体の発現を抑制してTRAIL感受性を低下させてしまうことを、2011年にLeukemia Research誌に報告しました。こうした一連の研究成果を総合すると、BCR-ABL融合蛋白がフィラデルフィア染色体陽性白血病のTRAIL受容体発現に関与している可能性が示唆されます。そこで本論文では、BCR-ABL遺伝子に対するRNA干渉によってBCR-ABL蛋白の発現を抑制しても、Imatinibで処理したと同様にフィラデルフィア染色体陽性白血病のTRAIL受容体発現が低下する一方で、フィラデルフィア染色体が陰性の白血病細胞に対してBCR-ABLを遺伝子導入するとTRAIL受容体の発現が増強され、さらにImatinib処理によって低下することを確認しました。こうした解析結果は、BCR-ABL融合蛋白がフィラデルフィア染色体陽性白血病のTRAIL受容体発現に関与していることを証明するものです。この研究成果は、白血病を含むさまざまな癌細胞における細胞傷害因子受容体の発現機序を明らかにして、癌に対する免疫療法の効果をより確実なものへと発展させて行く上で、1つの方向性を示す重要な知見であると言えます。

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