当科の根本らの論文
Diverse underlying proliferation response to growth factors in imatinib-treated Philadelphia chromosome-positive leukemias.  Nemoto A, Inukai T, Uno K, Kiyokawa N, Miyagawa Y, Takahashi K, Sato H, Akahane K, Hirose K, Honna-Oshiro H, Goi K, Kagami K, Nakazawa S, Fujimoto J, Inaba T, Sugita K.」が小児てんかん学の専門誌である「Leukemia Research」の2013年1月号に掲載されました (Leuk Res. 37, 93-101, 2013.)


「正常の造血においては、造血幹細胞によって全ての種類の白血球と赤血球そして血小板が維持されています。造血幹細胞からは各血球系に対応する造血前駆細胞が作られ、造血前駆細胞には血球系ごとに固有の造血因子が作用して、造血がコントロールされています。慢性骨髄性白血病や一部の急性白血病では、フィラデルフィア染色体と呼ばれる9番と22番染色体の構造異常(転座)が認められます。このフィラデルフィア染色体によって形成される異常遺伝子BCR-ABLには、造血因子の作用を受けなくても継続的に増殖を促す作用があります。その結果、慢性骨髄性白血病では、フィラデルフィア染色体を持つ造血幹細胞から、種々の白血球のみならず赤血球や血小板が過剰に作られます。このため、BCR-ABLの機能を抑制するイマチニブなど薬剤が臨床応用されています。一方、慢性骨髄性白血病では、造血細胞の遺伝子が不安定となり、新たな遺伝子変異を獲得した一部の造血前駆細胞が未熟なまま増幅されて、急性白血病と同じような状態へと進行します(急性転化と言います)。フィラデルフィア染色体を持つ急性白血病でも、同様の病態が想定されています。したがって、急性転化やフィラデルフィア染色体を持つ急性白血病の白血病細胞は、造血前駆細胞としての性質をある程度は残していると推測されています。そこで、こうした白血病細胞を解析することが、ヒトの正常の造血前駆細胞の性質を理解する助けになるため、さまざまな研究が行われています。本研究では、こうした急性転化や急性白血病となったフィラデルフィア染色体を持つ様々な白血病細胞(培養フラスコで増殖する細胞株)を用いて、その造血因子に対する感受性を調べました。しかし、これらの白血病細胞の増殖はBCR-ABLによって維持されているため、そのままでは造血因子には反応しません。そこで、BCR-ABLの機能をイマチニブで抑制した上で造血因子に対する感受性を解析するという工夫をしました。その結果、白血病細胞が多様な造血因子感受性のパターンを示すことがわかりました。ヒトの正常造血に関する実験はサンプルを得ること自体が困難なため、造血前駆細胞の研究は主にマウスの系で行われてきましたが、白血病細胞を応用することでヒトの造血因子感受性を探る実験系となることが示されました。

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